102 名前: ◆PDh25fV0cw [sage] 投稿日:2009/12/12(土) 14:24:50 ID:a7n66heg
『もしも占い』
あるところに奇妙な占い屋があった。なにが奇妙なのかというと、この占い屋は起こらなかった未来を占う、もしも占いなのだ。
誰しも、あの時あれをしていれば、と後悔したことはあるはずだ。もしもその先、行動していた時の未来が見えるとするならば、誰しも知りたくなるだろう。
「あの、占って欲しいのですが」
小さなビルの一階、占い師の老年の男が占いの準備をしている時、一人の女性が占い屋に入ってきた。薄いグレイのスーツを着た、OLのようだ。
「はいはい、わかりました。占いたい内容はなんでしょうか?」
「私、少し前に彼氏と別れたんです。それで、新しい男の人と付き合い始めたのですが、どうもしっくりこなくて」
「それで、もし前の男性と別れなければ今はどうなっていたか。それでいいですかな?」
「はい、そうです。仕事が手に付かない、というほどでもないですが、やはりすっきりしなくて」
「ここにくる人は皆、そういっています。大丈夫、きちんと見てあげますよ」
そう言うと占い師は、目の前の水晶に手をかざし、呪文のようなものを唱えだす。時折、女性に質問し、また水晶に呪文を唱える。それを少し続けた後、占い師はおもむろに答えた。
「結果がでました。紙に書いてきますので少しお待ちを」
そうして後ろの部屋に向かい、5分もしないうちに戻ってくる。
「これに全て書いてあります。それでは代金の方をもらえますかな?」
「わかりました。ですが、なぜ結果をいちいち紙に書くのですか?口で言えばすむ話なのに」
「私も昔はそうしていました。しかしそうすると、代金を払わないで出て行ってしまう不届き物がおりまして。こうして紙に書いているのです」
「そうだったのですか。これが代金です」
女性から、代金としてお札を数枚渡し、占い師は結果の紙を渡す。
女性が不安と期待、そして恐怖。それらがまぜこぜになった表情を浮かべ、少し興奮気味に占い屋を去って行く。
一仕事終えた占い師は、部屋の奥に向かった。そこでは、共同経営者の、眼鏡の青年がパソコンで書類を作っていた。
この青年は、半年ほど前、この占い屋にお客としてきた時スカウトされて、この占い屋にいた。
青年は、小説家志望で文は上手いのだが、暗い話しか書けないのでどうにかして欲しいと相談に来たのだ。
そんなこと、プロの小説家に聞けといいたかったが、その時占い師はひらめいた。
そうして生まれたのがこの、もしも占いだ。占い師が、巧みにお客の素性を喋らせ、マイクで聞いている青年が、それを文章にする。
青年の書く、生々しく寒気のするような文は、読んだ人を震え上がらせるに十分だった。
「しかし、毎回暗い話ばかりでいいのでしょうか?」
「いいんだよ。もしも、なんて聞きに来る人間は自分は間違って無かったと、聞きにきているだけなんだから。もしも、で幸福になると言ったら、怒って怒鳴り込んでくる奴もいるだろうさ」
「たしかに、そうですね」
そう他人の不幸は蜜の味。違う選択肢を選んだ自分はもう、他人なのだから。
『もしも占い』
あるところに奇妙な占い屋があった。なにが奇妙なのかというと、この占い屋は起こらなかった未来を占う、もしも占いなのだ。
誰しも、あの時あれをしていれば、と後悔したことはあるはずだ。もしもその先、行動していた時の未来が見えるとするならば、誰しも知りたくなるだろう。
「あの、占って欲しいのですが」
小さなビルの一階、占い師の老年の男が占いの準備をしている時、一人の女性が占い屋に入ってきた。薄いグレイのスーツを着た、OLのようだ。
「はいはい、わかりました。占いたい内容はなんでしょうか?」
「私、少し前に彼氏と別れたんです。それで、新しい男の人と付き合い始めたのですが、どうもしっくりこなくて」
「それで、もし前の男性と別れなければ今はどうなっていたか。それでいいですかな?」
「はい、そうです。仕事が手に付かない、というほどでもないですが、やはりすっきりしなくて」
「ここにくる人は皆、そういっています。大丈夫、きちんと見てあげますよ」
そう言うと占い師は、目の前の水晶に手をかざし、呪文のようなものを唱えだす。時折、女性に質問し、また水晶に呪文を唱える。それを少し続けた後、占い師はおもむろに答えた。
「結果がでました。紙に書いてきますので少しお待ちを」
そうして後ろの部屋に向かい、5分もしないうちに戻ってくる。
「これに全て書いてあります。それでは代金の方をもらえますかな?」
「わかりました。ですが、なぜ結果をいちいち紙に書くのですか?口で言えばすむ話なのに」
「私も昔はそうしていました。しかしそうすると、代金を払わないで出て行ってしまう不届き物がおりまして。こうして紙に書いているのです」
「そうだったのですか。これが代金です」
女性から、代金としてお札を数枚渡し、占い師は結果の紙を渡す。
女性が不安と期待、そして恐怖。それらがまぜこぜになった表情を浮かべ、少し興奮気味に占い屋を去って行く。
一仕事終えた占い師は、部屋の奥に向かった。そこでは、共同経営者の、眼鏡の青年がパソコンで書類を作っていた。
この青年は、半年ほど前、この占い屋にお客としてきた時スカウトされて、この占い屋にいた。
青年は、小説家志望で文は上手いのだが、暗い話しか書けないのでどうにかして欲しいと相談に来たのだ。
そんなこと、プロの小説家に聞けといいたかったが、その時占い師はひらめいた。
そうして生まれたのがこの、もしも占いだ。占い師が、巧みにお客の素性を喋らせ、マイクで聞いている青年が、それを文章にする。
青年の書く、生々しく寒気のするような文は、読んだ人を震え上がらせるに十分だった。
「しかし、毎回暗い話ばかりでいいのでしょうか?」
「いいんだよ。もしも、なんて聞きに来る人間は自分は間違って無かったと、聞きにきているだけなんだから。もしも、で幸福になると言ったら、怒って怒鳴り込んでくる奴もいるだろうさ」
「たしかに、そうですね」
そう他人の不幸は蜜の味。違う選択肢を選んだ自分はもう、他人なのだから。