356 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 14:32:06 ID:MGSblrMq

「完璧な金庫」
とある薄暗い店の中。
客は男を除けば一人もおらず、店員も店長を名乗る初老の男がいるのみだった。
壁には無機質な灰色の金庫が所狭しと並べられており、箱にはダイヤルやら鍵穴やらその他よく分からないものがごちゃごちゃと引っ付いている。
「死んだ親の家を整理しているとタンスの底からかなりの量の札束が見つかったのだ。
あれだけの金を扱うとなると少々面倒なのでね。
しばらく保管しておきたいのだが、いいものはあるかね?」
 男は周りを見渡しながら店長に聞いた。
男の目にはどれも似たような金属の箱にしか見えなかった。
「もちろんございますとも。
お客様は運がいい。
売り切れ続出の新製品を昨日仕入れたばかりでして。
ご覧ください」
 店長が連れて行った先には他よりも少し大きめの金庫があった。
扉には鍵穴はなく、代わりにパネルのようなものが取り付けられている。
「ふむ、これは他のものとどう違うのだね?」
「これは最先端の技術とアイデアを総動員して作られた最高の金庫ですよ。
いかなる手段を講じようとも持ち主以外の者がこれを開けることは不可能です」
 よほど商品に自信があるのであろう、説明する店長の顔は子供のように得意げであった。
「まず重さ。960キロ、つまりほぼ1トンの重量を誇り、人間では何人がかりであろうと持ち運ぶのは不可能です。
お買い上げいただいた際には特殊な機材で運び込みますので置く場所は慎重にお決めください」
「しかし私が開けられる以上他の人間に開けることも可能なのではないのかね?」
「そんなことはございません。
まず、この金庫では鍵の変わりに指紋、声紋、血液によるDNAチェックという3つの照合方法を採用しております。
指紋はシリコンで精巧に偽造することが可能ですが、生体電流を感知することでそれを防いでおります。
声紋の照合システムも最先端のものであり、録音等の手段では決して破ることはできません。」


357 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 14:35:24 ID:MGSblrMq
「それだけなら他の金庫でもできそうなものだが」
「ここからがこの金庫の素晴らしいところなのですよ。
金庫に金品を保管する場合一番怖いのは強盗です。
いかなるセキュリティでもナイフや銃で脅されて開けさせられてはどうしようもありませんからね。
そこで、血液の照合がものをいうわけです。
この金庫では血液で単にDNAを照合するわけではありません。
血液中の分泌物から持ち主の精神状態を分析し、現在の状況を完璧に読み取り、最善の行動をとるようプログラムしてあります」
「ほう、たとえば?」
「血液の分析の結果恐怖の感情が読み取れた場合、強盗に入られたものと判断します。
金庫の中身を内部で格納し、代わりに宝石を置きます。
宝石には発信機が仕込んであり、もし犯人が宝石を持ち帰れば確実に捕らえることができます」
「しかし犯人がそんなに間抜けとは限らんだろう」
「もちろんです。格納された中身に気付き無理やり開けようとした場合、催眠ガスを噴出します。
また、持ち主が宝石の裏のパネルに触れることでも作動します。
これは無理やり開けるよう脅された場合に使用してください。
それでもなお無理やり開けようとしたり持ち運ぼうとした場合高圧電流が流れます。
くらえば半日は起きないでしょうね」
「なるほど、それならば安心だな」
「はい。また、分析の結果焦燥の感情が読み取れた場合、指紋、声紋の照合なしで金庫が開きます。
急いでいるときは一分一秒が惜しいですからね」
「ふむ、なかなか気が利いているな」
「もちろん完全防水、耐熱、耐圧構造ですから津波が襲おうと火事になろうと地震が起きようと問題ありません。
センサーで衝撃が人為的なものかどうかを判断しますので、地震の際に催眠ガスが出るようなこともありません」
「素晴らしい。まさに完璧という言葉がふさわしいな」
「そうでしょう。気に入っていただけましたか?」
「ああ。これで安心して金を保管できる。
買わせてもらうとしよう。いくらかね?」
「5億2000万円でございます」
「なんだと? 冗談だろう。
5200万の間違いではないのか」
「いいえ、5億2000万円でございます」
「ふざけるな。それでは金庫代だけで金のほとんどが消えてしまうではないか。
たかが金庫にそんな金をかける奴は頭がおかしいに決まっている」
「しかしほとんどのお客様は喜んでくださいますよ。
需要に供給が追いついていないのが現状ですから要らなくなった方の金庫は5億で買い取らせていただいているほどです」
「それは本当かね? きっかり5億で?」
「はい。注文は増える一方ですのであまり贅沢は言っていられませんから」
「……気が変わった。その金庫、やはり買わせてもらうことにするよ」
「本当ですか? お買い上げありがとうございます」



 その日の夜、金庫が家に届いた。
タンスの中の金がごっそり持っていかれるのを見ても男は満足げだった。
「まったくいい買い物をしたものだ。5000万の金庫を買うよりよほど良かった。
税金で国にぼったくられるくらいなら2000万の差額など安いものだ。
どいつもこいつも考えることは同じということだな」